正社員として採用してもらいたいが、職業経験が少ないので採用につながらない。また、採用する企業側も正社員を雇用したいが、能力や適性を見極めるのが難しい――。
このような若者と企業どちらの悩みも解決し、正社員としての採用のマッチングをサポートしている「ジョブ・カード制度」。この制度を活用することで、若者は給与をもらいながら企業での職業訓練を行うことができ、企業も訓練生の能力や適性を判断して、人材の育成を行うことができます。
今回は、実際にジョブ・カード制度を活用して若者の職業訓練を行っている、横浜市のIT企業「インフォ・ラウンジLLC(合同会社)」を取材しました。
インフォ・ラウンジLLCは、横浜市都筑区にオフィスを構え、地域情報を基盤にしたウェブのシステム開発を行っています。開港150周年を機に市民の手で作られた横浜のSNS「ハマっち!」や、横浜のイベント情報を掲載・共有できるサイト「イベントナビ」、横浜の歴史を記す画像投稿サイト「みんなでつくる横濱写真アルバム」などのシステム開発を通じて、地域情報の活性化につながる仕事をしています。
同社では現在、ジョブ・カード制度を活用し、工学系大学出身の伊藤宗太さん(25歳)を訓練生として採用。職場で実際に仕事をする実習と、専門学校での座学を組み合わせた6ヶ月間の有期実習型訓練を行っています。
有期実習型訓練では、求人企業が自社のニーズにマッチした実習(OJT※1)と、教育訓練機関などでの座学(Off-JT※2)を組み合わせることで、求職者は職場と教育訓練機関の双方で、正社員になるためのスキルを磨くことができます。
また、訓練期間中は企業との雇用関係のもとで職業訓練が行えるため、訓練生は給与を受け取りながら職業能力を身につけることができ、企業も訓練を通じて訓練生の能力や適性を判断することができます。
インフォ・ラウンジLLCで訓練生として採用された伊藤宗太さんは、郵便局や飲食店でのアルバイト経験はあったものの、大学卒業後からこれまで正社員として働いた経験はありませんでした。今回の職業訓練では、Web開発のプログラミング業務を同社での実務を通じて学ぶと共に、岩谷学園テクノビジネス専門学校の「IT.Webプログラミング科」に3ヶ月間通学し、IT技術を学びました。
伊藤さんは「初めての仕事として、インフォ・ラウンジLLCのホームページを作成したのですが、専門学校の授業で学んだ技術をそのまま活かすことができました。仕事と授業を並行して行ったことで、身につけた技術を実践の中で活かすことができてとてもよかったです」と話します。
OJTとOff-JTを組み合わせることで、求職者も自分で専門技術を身につけながら、短い期間でも有効な職場実訓練を行うことができるようです。また、従来の履歴書には書くことのできなかった自分の特性なども、ジョブ・カード様式には細かに書いてアピールできることが特徴です。
様式には、正社員経歴がなくても、アルバイトなどの経験を通じて学んだことや、「得られた知識・技能」を記入することができ、ボランティア活動の経験や部活・サークルなどでの活動についても「社会活動体験歴」に書くことができます。ジョブ・カード様式は、厚生労働省のホームページからもダウンロードできます。
伊藤さんはジョブ・カードの書き方について「ジョブ・カードは、少し詳細なアルバイト用の履歴書といった程度で、決して書きづらくはありませんでした。履歴書との違いとしては、所々にジョブ・カードサポートセンターの登録キャリア・コンサルタントの方に記入して頂く欄があり、就業に対する希望を叶えるためにどう支援していくかなどのコメントが記されます。また、何より他人に評価されるための履歴書ではなく、登録キャリア・コンサルタントの方と共に僕の就業に向けての目標や課題を作り上げていくために使われるものなので、考えすぎずに書き出すことができました」と話します。
ジョブ・カード制度は、活用する求職者にとっては、給与をもらいながら実務能力を身につけることができ、就労へのステップアップをするのに有効なようです。では、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
インフォ・ラウンジLLCの代表社員・社長の肥田野正輝さんは、「世の中には、ポテンシャルは大きいのに『学ぶことで得られるスキル』がまだ身についていない人がいます。会社の将来を考えると、そのような自社のニーズに合った人材育成ができる人を採用したいと思っていました。でも、中小企業では即戦力となる経験者でなければ採用は難しいし、社内で基本スキルを教育する余裕もありません。だから、知人からジョブ・カード制度の話を聞いたときに、『これだっ!』って思いました。社員として採用しつつも、基本スキルを外部機関で学んでもらえる。これは、中小企業にとってはとてもメリットのある制度だと思います」と話します。
ジョブ・カード制度の活用を表明した協力企業は、制度がスタートした平成20年度は全国で3,507社、平成21年度は8,882社と増えており、横浜市ではこれまで200人以上の方が職業訓練を行い、その多くが正社員としての雇用につながってきました。
肥田野さんは、実際にジョブ・カード制度を活用した有期実習型訓練を行ってみて「今回は6ヶ月の訓練期間を設定しましたが、このぐらいの期間があれば安心だと思います。人の底力って追い込まれたときに発揮されるので、1ヶ月や2ヶ月の試用期間ではなかなかそこまでは踏み込めないと思いますし、万一、継続雇用が叶わなくても、本人にはしっかりとしたスキルが身につくと思います。訓練生と企業の双方にとって、とてもメリットのある制度なので、自社内の研修体制を持たない中小企業こそ、もっと活用したら良いのではないかと思いますね」と話します。
企業は若者を採用するとき、どうしても即戦力の人材を求めてしまうこともあると思いますが、自社で継続して仕事をする若者と出会い、雇用するには、このようにじっくりとスキルアップの期間を設けることも大切なことだと思います。また、若者にとっても、すぐに正社員としての雇用だけを目指すのではなく、職業訓練を受講することで、将来の職業の選択肢や可能性も広がるのではないでしょうか。
実際にジョブ・カード制度を活用する際は、全国138の商工会議所にジョブ・カードセンターが設置されており、横浜市内では横浜商工会議所が窓口となってジョブ・カード制度の普及を行っています。正社員を目指す若者はもちろん、ジョブ・カード制度の活用を考えている企業の相談も行っています。